ホーチミンでカード賭博詐欺にあった話【ベトナム】


私は本当に旅先での出会いに恵まれている。と、思っている。

できるだけ現地の人と交流したい、現地の人の生活を知りたいと考えている私は、例えばモロッコではバックパックをなくしたときに、協力してくれた男性に勧められるがままにその人の家に泊めてもらったり、町でたまたま知り合った人に誘われて、現地人しかいない宗教的なイベントに真夜中から出かけて行ったりした。
「悪い人だったらどうしよう」などと一応は警戒するのだが、コーヒーを飲みながら一時間程おしゃべりしていると、「この人は絶対にいい人だ」という、根拠のない勘のようなものが働いて、そして大抵その勘はあたり、普通に旅行していたら味わえないようなディープな体験をすることになる。

その勘が唯一働かなかった、「うわ、やられた」と思った経験が、ホーチミンでのカード賭博詐欺。

その夜、約10日間のベトナム旅行の帰国から2日ほど前で、ホーチミンの街を目的もなくぶらぶらしていた。
その旅ではそれまでの旅のような現地人との出会いがなく、そうなるとやっぱり一人旅は孤独。
帰国する前に何かいい出会いが無いかなぁなんて考えていた私は、犯人グループにしたら格好のターゲットだったのだろう。

不意に、屋台の前のプラスチックの椅子に座ってビールを飲む、ちょっと小太りのおっちゃんに話しかけられた。
すごい人懐こくて、いい人そうな笑顔。英語もそこそこできる。
孤独と退屈を持て余していた私は、暇つぶしにおっちゃんとビールを飲みつつおしゃべりすることに。

聞くと、おっちゃんの姪が日本の企業(マツダと言ってたような・・・)で働くために、一か月後から半年間日本に行くのだという。
それで、今日本語教師についてもらって、日本語を勉強しているんだそうな。
日本について姪に教えてあげてほしいので、明日時間があるなら会ってくれないか、姪がホーチミンをいろいろと案内してくれるだろう、とのこと。

「そうこなくっちゃ」私は思った。一人旅は、これだから、楽しい。

翌朝、約束した時間に待ち合わせ場所に行くと、おっちゃんと、そして姪にしては老けてる女の人がいた。
女の人は片言の日本語をしゃべり、姪っ子の日本語教師なんだと説明した。
姪っ子は少し大学に用事があり、昼前に戻ってくるので姪の家で待とうとのこと。
というわけで3人でタクシーに乗り込み、姪の家へ。

知り合ったばかりの人とタクシーに乗り込み、何処かもわからない場所へ行く、ということについて、不思議なほど不安や恐怖はなかった。
それまでの一人旅で現地人と仲良くなってすごく良くしてもらった経験が、「このおっちゃんは絶対にいい人だ」という私の根拠のない勘が、その辺の危険意識をだいぶ鈍らせていた。

姪の家に到着すると、用事があるらしいおっちゃんは帰っていった。
お手伝いさんらしき人がいて、日本語教師と私にコーヒーを出してきてくれたので、裕福な家なんだな、と思った。

しばらく待っていると、姪の父親が出てきた。
父親は、若いころ自分もバックパッカーみたいな旅が好きで、日本にも「ニイガタにヒロシ、ナゴヤにショウコ」という友達がいるぞ、という話をしていた。
そして、いきなり、「自分はカジノでディーラーの仕事をしている。ブラックジャックを知っているか、教えてやるから遊ぼう」と言われた。

その時初めて、私は「なんかおかしいぞ」という違和感を感じた。
そして、自分が何処にいるのかわからない、逃げたくても逃げられない状況にいることを悟った。
ただ、これがどういうことか考える暇を与えず、姪の父親はトランプを取り出し、日本語教師と私を相手にブラックジャックのルールを説明し始めた。
私はそわそわしつつも、ブラックジャックのルールを理解し、日本語教師と3人で簡単にゲームをやってみた。

ルールを覚えたところで、父親は「ディーラーとプレーヤーがぐるになって、その他のプレーヤーからお金を巻き上げる方法」を教えだした。
ゲーム中にディーラーが事前に決めた合図で、自分の手持ちのカードを教えてくれるのだ。

いよいよおかしい。「なんかおかしいぞ」という違和感は、「私は今だまされているぞ」という確信に変わった。
と、確信したところで、「お前ら私をだましているだろう!これは詐欺だろう!」と言ったらどうなるかわからない。
仕方なくだまされている演技を続ける。
「この方法でお金持ちからお金を巻き上げて、世界の恵まれない子供たちにお金を寄付しているんだ」というちゃんちゃらおかしな話にも、「それはいいことね」みたいな感心したリアクションを取らなければならなかった。
横を見ると日本語教師も彼の行いに感心している。・・・演技をしている。
自分がだまされている演技をしている状況も、彼らが私をだますための演技をしているのを見るのも、なんだかおかしかった。

だまされている演技を続けつつ、これからどうなるのか、どうすればいいのかを忙しく考え続ける。
「ヤバいぞ」と思いつつも、これは明らかに詐欺なので、だまされ続ければお金を取られても命を取られることはないだろうと、そこまでの恐怖は感じていなくて、逆に冷静だった。
でももちろん、できることならお金を取られることもなくここから逃げ出したい。

すると彼らは次のステップに進んだ。
「今からブルネイの富豪、マリック氏がここに来るので、今教えたやり方で彼からお金を巻き上げてやろう」という。
そしてすぐに、ブルネイの富豪(役)、マリック氏登場。
いかにも金持ち風の、小柄でよさそうなスーツを着た初老の男性と、お互いに挨拶をかわす。
そしてついに父親は「ゲームを始めるから持ってる金を全部出せ」と言ってきた。

ついに来たか、という感じ。やっとなんだか恐怖みたいなものがやってきて、冷静に考えられなくなった。
「あーどうしようこの状況、お金出してゲーム始めたらやばいよ もう絶対引き返せないよ、お金めっちゃ取られるよやばいよ」とまとまらない考えが頭の中をぐるぐる駆け回り、気づいたら・・・

「Nooo!」と叫んで席を立って部屋の外へ逃げ出していた。笑

追いかけてきた父親と日本語教師に、「お金なんて持ってない、もう帰る!!」とヒステリック気味に喚いたら、意外にもすんなりと返してくれることに!!!

お前ら、そんなあっさり帰していいんかーーーい!!!
今までの手の込んだ計画と、4人がかりの演技をそんなに簡単に無駄にしていいんかーーーい!!!
と、逆に突っ込みたくなってしまった。

そして、帰りのタクシーの中で日本語教師が「午後だったら姪は会えるみたい。また午後に待ち合わせしない?」と間の抜けたことを言うので、「こいつら、私がまだ騙されてると思ってるのか!」と驚いて、「じゃあ姪と電話でしゃべってみていい?」と聞くと、ちょっと考えた後何やら電話をしだした。

変わってもらって、挨拶して名前を名乗ると、「どこから来たの?」とこれまた間の抜けた質問をする姪・・・。
お前が日本に行くので日本のこと教えてほしいっていうから、わざわざ会おうとしてたんじゃーーーー!!!
と、本日2回目のツッコミを心の中で入れて、「日本よ。じゃあまたいつか会おうね、バイ」と電話を切った。

後から知ったのだが、この詐欺は『地球の歩き方』の危険情報ページに載っているほど被害の多い有名なものらしい。

試しに「カード賭博詐欺 ベトナム」と検索してみると、もう完全に私が体験したそのままの手口が書いてあり、面白い。

(1) 市場や観光スポット、道端などで、英語または片言の日本語で声をかけられる。 たいてい「今度親戚が日本に留学する」「母親が日本で心臓の手術をする」などの理由で 日本のことを教えて欲しい、という内容。

(2) ひとしきり話したあと「うちで食事をしよう」とか「留学の書類を見て欲しい」 などいって、自宅や宿泊先のホテルにさそってくる。

(3) しばらくすると、「自分はカジノでディーラーをしている。 ゲームを教えてやるから遊ぼう」と、ブラックジャックのやり方を教える。

(4) そこへ突然金持ち風の外国人が登場し、金をかけてやろうという話になる。 このとき「金持ちをだまして金を巻き上げよう」と、勝てる合図を教えてくれる 場合もあるし、勝手に勝たせてくれる場合もある。

(5) 金持ち風の外国人は負け続けてイライラし、掛け金がどんどん跳ね上がる。 「これで最後だ」と大金をかけてきて、「本当に金があるかどうか見せろ」といわれる。

(6) 金がないと「カードは伏せたままにして金を下ろしに行こう」ということになり、 キャッシュカードを使って現金を下ろすよう指示される。 限度額に達して引き出せないと、時計や貴金属を買わされる場合もある。

(7) 戻ってきて伏せたカードを開くと、当然のことながら負け。 引き出してきた現金や購入した品物をとられてしまう。 「いったんホテルに戻ってまた続きをして負けを取り戻そう。  あとでホテルまで迎えに行く」などといってホテルまで送ってくれるが、 当然あとで迎えには来ず、そこで騙されたことをはっきり自覚することになる。
出典:http://tabimap.net/sin/?p=692

私はこのうち(4)でなぜか逃げ出すことに成功してしまったのだけど、その後勝たせてくれるはずのゲームに負けて逆にお金を巻き上げられる、というパターンのよう。

実際は何の被害もなかったし、日本に帰ってから武勇伝的に披露することができて今となっては面白い経験をしたな、という感じなんだけど、でも被害にあった直後は、私が完全に「いい人」と判断したおっちゃんにだまされていたことにかなりのショックを受けた。

旅先で出会った人に対して、「この人は絶対にいい人!」と決めつけるのは危険だ、という当たり前のことを学んだ貴重な出来事だった。


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